「ちょっと!」

声をかけるものの、気付いてないのか振り返ることなく足早に歩き続けるから、こっちは、走って追いかけた。


そうして、彼が行き着いた場所は、中庭だった。



小鳥のさえずりでも聞こえてくるんじゃないかってくらい静かな空間が、そこにはあった。




「ちょっと!」


「んだよ」


ようやく振り向いて、ダルそうに返事をした彼。


食堂の中では分からなかったけれど、前髪が少し目にかかるくらいの長めの茶髪が印象的な彼。

きっと、世の中では、イケメンと言われる部類に入る人なんだろう。

少なくとも、私がこれまで出会った人の中で、一番整った顔をした人だった。


イケメンだからって、何でも自分の思うようになるなんて思ってるんじゃないでしょうね。


「そのパン、私のなんですけど!」


彼が手に持っているメロンパンを指差した。


「はぁ?これ、俺のだし。あんたは、それ、あるじゃん」

そう言って、顎で、あんパンを差した彼。