真っ暗なステージに出て行く四人。
サトシ、裕太、羽月、そして洋二の順番で出て行く。

洋二はステージの手前で振り返り、ミツを見た。
歌っている時のような真っ直ぐな視線。
切れ長の目から放たれる鋭い眼光がふと緩む。
四角く切り取られたファインダーの中で洋二の口元が上がる。
洋二は笑っていた。
いくつもファインダー越しに見てきた、
仲間とふざけ合う時の笑顔ではなかった。

音楽のこととなると我を忘れてしゃべった、あの笑顔でもなかった。
切れ長の瞳が、何度もそうしてきたようにそらされた。
赤茶色の髪がさらにそれを隠した。
口元だけが笑っていた。
寂しそうに、悲しそうに、何かを諦めたように。

やがて、口元の笑みも消え、薄い唇が少し開いたが、すぐに閉じられた。
ミツは何か声をかけようと思ったが、洋二はくるりと向き直って
ステージへ出て行った。

フラワー・オブライフの最後のステージ。
ミツは真っ暗なステージへ、洋二が吸い込まれていくのを見つめていた。

最初に見た時と同じように、ライトが煌々と四人を浮かび上がらせて、
裕太のドラムのスティックが鳴った。
ミツは客席側から撮影するために、舞台袖を離れた。

女の子たちが洋二の名前を呼ぶ声が聞こえる。
フロアは観客で埋まっていて、変わらない洋二の高音がかすれた歌声が、
せつなく響く。

四人が紡ぐ音が、観客を沸き立たせる。
ミツは観客たちにもまれながら、時が止まることだけを祈っていた。

度々、さっきの洋二の表情が浮かんできた。
目の前で歌う洋二の姿とは重ならない、弱々しい姿。
洋二は、あのボロアパートの薄壁の向こうで、
幾度もあんな顔をしていたんだろうか。
その度、ギターを鳴らしたのだろうか。

ミツはカメラを持つ腕に力を込めた。
洋二の両腕から零れ落ちていくものを、ミツに繋ぎ止めることはできない。
ファインダーが揺れて滲む。
洋二に向かって伸びる何本もの腕も、何もすくいあげることはできない。