「大学出て小さい印刷会社に入って、
ハゲたオッサンの後ついて営業まわって、根性なくて嫌んなって辞めた。」
「そうだったんすか。」
ミツは少し笑った。
店長も照れたように口元を緩めた。

「なんも考えてなかったなぁ、あん時。」
店長は伸びをした。
「辞めて良かったのか、悪かったのか、今でもわかんねえな。
辞めなかったおれがいたらわかるかもしれねえけどさ。」
「そうっすね。」
「比べられねえからなぁ・・・。」
「・・・そうっすね。」
店長はスクリーンセーバーが始まったモニタを、
マウスを指先でつついて元の画面に戻した。

「正月までは出てくれよ。」
「わかりました。」
ミツはぺこりと頭を下げ、奥の休憩室に向かった。
「どうせ、何やったって後悔すんだ。なんだってできるぞぉ、おれは。」
ミツの背中の後ろで店長が独り言のように投げかける。
ミツはその声を聞いて肩がふわりと軽くなるのを感じた。

ミツはバックヤードで買っておいたコンビニ弁当をレンジに入れた。
オレンジ色の光の中で回るコンビニ弁当。
店内のクリスマスBGMが聴こえてくる。

携帯を見ると、裕太から着信があった。
ミツは携帯を耳にあてた。
「・・・・もしもし?裕太、電話くれた?」
電話の向こうで裕太の明るい声がする。
「おう!ミツ。今日バイトしてんだってな。さみしいねえ。」
「うるせえよ。」
ミツは思わず笑って答えた。

「なんだよ、洋二みたいな言い方しやがって。」
「なんか用だったの?」
「そう。今日サトシくんが集まろうって言ってただろ。」
「ああ、裕太は彼女いるからいかないってやつだろ?」
「そうそうって、そうなんだけど。」
がははと笑う裕太。裕太の彼女は幸せだろうな、とミツは思う。

「なんかよ、洋二も急にバイトいれちまって行かないらしいんだ。」
「え?マジで。」
「そうそう、だからさ、その、ミツがバイト終わって駆けつけちまうと
あれかな、と思って。」
裕太は少し、声のトーンを落とした。