ミツが言葉を発する前にサトシが口を開いた。
「ミツには、最初に言っとこうってみんなで決めたんだけど、」
 洋二は腕を組んだまま動かない。
裕太は手遊びしていたストローから手を離した。

「フラワー・オブ・ライフは、解散することにしたんだ。」

羽月がうつむいた。
サトシは続ける。
「おれは元々、親父の仕事手伝いながらバンドやってたんだけどな、
いよいよ本腰入れてやることになった。」
「おれも、もうそろそろ就活やんねえとってことになって。」
裕太はつまらなそうに吐き捨てた。

「そっか・・・。」
ミツは一言も話さない洋二を横目で見た。
ステージの王様は、だらりとソファに背をあずけて宙を睨んでいる。

「ハンバーグセットになりまぁす。」
ウェイトレスが明るい声でハンバーグセットをミツの前に置き、
追加伝票を丸めて透明の筒に押し込んだ。

「最後にライブやって終わることにした。日にちは二月十四日。
バレンタインだ。」
「ファンからチョコはもらっとかないとな。」

裕太はストローを加えて茶化した。
ミツはハンバーグセットの湯気の向こうの仏頂面を見た。
偶然か、意図的なのか二月十四日は洋二の十代最後の日だ。

「食べなよ、ミツくん。冷めちゃうよ。」
羽月に声をかけられ、ミツは羽月を見た。
アーモンドのかたちをした瞳がさみしそうにしている。

「おれ、最後の日までフラワー・オブ・ライフを撮り続けるよ。」
洋二は初めて顔をあげた。驚いたような頼りない表情。
「ダメかな?洋二。」
ミツは洋二に問いかける。
「好きにすれば・・・」
洋二はふてくされた子供のように目をそらした。
「ありがとう。最後のライブもかっこよく撮るよ。」
ミツは洋二に笑いかけてみた。

そのまま最後のライブに向けての打ち合わせが始まった。
食べ残したハンバーグセットのライスの米粒が皿の上でかちかちになった。半袖の明るい声のウェイトレスがその皿をさげていった。

ミツは四人の姿を撮り続けた。
二度と戻らない、失われていく何かを記録するように。

洋二はいつも通りだった。
バイトへ行き、スタジオへ行き、羽月を送った後、
ミツが隣に住むアパートに帰り、ギターの音を薄壁の向こうに響かせた。