「猫を飼ってもいい?」

 ある日、お母さんがお父さんに尋ねました。

この言葉がすべての始まりでした。

「うん、いいよ」

 お父さんは答えました。

 でも猫ってそんなにかんたんに飼えるのかなぁ、とお父さんは心配

でした。お母さんはときどき入院していたからです。

 お父さんはすこし考えたあと、お母さんの言うことはきっと正しいに

違いない、お母さんが入院したら僕が猫にごはんをあげようと決心

しました。

「あさみちゃんがね。とってもかわいいヒマラヤンがいるよって電話して

くれたの」

 お母さんは嬉しそうに言いました。

「名前も決めたのよ、あすかっていうの」

 お父さんはお母さんの意見に賛成して良かったなぁと思いました。

 そこで、お父さんとお母さんは田中さんのお家にあすかを迎えに行き

ました。一か月後には妹のまみもやってきました。

 やがてお父さんは不思議なことに気がついたのです。

「おや、あすかとまみはお母さんとお話しができるみたいだぞ」

 二匹の猫たちは、お母さんと楽しそうにおしゃべりしたり、お母さん

の痛む手や冷えた足を暖めたりしているのです。

 お父さんは不思議な猫たちだなぁ、お母さんは猫の言葉が分かって

羨ましいなぁと思いました。

 ある初夏の日のことでした。

 あすかとまみの話し声が、お父さんにも聞こえてきました。

「もうすぐ あめがふるよ」

 あすかが言いました。

「おはなが あめをうける じゅんびをしてますねー」

 まみが言いました。

 お父さんはびっくりしました。あすかとまみのおしゃべりはとても

不思議でいろいろな示唆に満ちたおしゃべりでした。

「天使のような猫たちね」

 ある日、お母さんが言いました。

 お父さんは猫たちを飼って本当によかったなぁと思いました。