「ごめんなさい。私、踏んじゃったみたいで」

「ああ。いいの、いいの。はなこさんは人の足元が好きなのよね」

毛がお姉さんを見て返事した。

聞き覚えのある、あの鳴き声。

「え!!? 猫!?」

よーく見ると毛の真ん中に黒豆のような小さな鼻がぽつんとついている。

「おデブちゃんだし、毛むくじゃらだしねえ。雑種猫のはなこさん。おばあちゃん猫」

「お店の名前もたしか」

「はなこさんのみせ。店長がはなこさんで、私は副店長」

嗚呼。

ますます帰りたくなってきた。

「はい、これ使って。汚いものじゃないから安心してね、なーんちゃって、くくっ」

自分で言っておいて、必要以上にと笑う副店長さんの手から、私はしょうがなくバスタオルを受け取った。


ほんのりバラの香り。


柔軟剤かな。それよりももっと花に近いような。


こんな乙女チックな気配り、副店長さんには似合わない。


「すごい雨。ちょっとゆっくりしていきなよ。お茶入れるね」


副店長さんはまた慌しく奥に引っ込んだ。

私は仕方なく、側にあった小さな椅子にちょこんと腰掛けた。

タオルの端で前髪から垂れる雫をちょんと払う。




帰りたいのと……

予想外のことばかりでワクワクしている自分と……