俺様天使とのキスまであと指輪一個分。

フレンはもう誰も腰掛けることのないだろう、道の片隅に置かれたベンチに座っていた。

首筋に手をかけて、ネックレスを外した。


ネックレスの先には小さな宝石箱のような形をしていて、その蓋を開けると花びらが一つ入ってあった。


その花びらからは、蒼が感じた、優しい蜜の香りがした。


その花の束を沢山抱きかかえて微笑む、フレンの母の姿をフレンは思い出していた。


「アレオン国はみんなのものなの。一部の利権のために多くの人を苦しませることのないように」

子守唄のように、フレンにそう言い聞かせてくれた母。


「母さん……」


どんなに心の中で叫んでも、もう優しい母に会うことはできない。