カクテル~Parfait Amour~

一月ほど過ぎたある日、昼食をとろうとしたら妃緒からの電話がなった。
出てみると泣きじゃくっていた。

「どうしたの?昼休みかな?」
できるだけ優しく声をかけた。
「昼休みです。
苦しくて苦しくて、非常階段でまた手首切っちゃったんです。
血が止まらない。
もう10分もたつのに…」

幸いなことに、妃緒の当時の職場の人達は、リストカットをする妃緒に偏見はないようだった。

妃緒をなだめながら、聞いていた会社の名前から住所と電話番号を調べた。
タクシーに乗り込んで住所を告げ、妃緒の職場へ電話をした。
責任者と話すことができ、このまま今日は俺が妃緒をつれて帰るということで話がついた。

タクシーを降り、電話で誘導されるがままにオフィスへ向かった。
トータル十人の小さなオフィスだが、掃除は行き届いていた。
案内された先に目をやると、涙を流して、左手に包帯を巻かれた妃緒が座っていた。

「水野さん、ごめんなさい。」
涙がこみあげてきた。
「ごめんね、妃緒。
守ってあげられなくて。」
職場の人に挨拶をし、妃緒の家に向かった。