妃緒は自分に言い聞かせるように言葉を続ける。

「男の人だってさ、パートナーを危険な目にあわせないようにがんばってるよ。
女の人だって、この人は私を落としたりしないって思ってるから、あんなことできる。
でもどこかで、落としても大丈夫だってお互いに思ってると思うよ。」
僕は妃緒の言葉を理解しようと必死だった。

「失敗しちゃいけないって思ったら、かえって動きが固くなってうまくいかなかったりしない?」
「確かにそうだね。」
「あの人たちはその失敗が下手したら大ケガにつながっちゃうから。
でもそれぞれの技術が信じられる確かなものなら、最悪な事になる確率はすごく低くなる。
だからお互いに安心して、危険な技にもチャレンジできるんじゃないかな。
共倒れにならないためには、両方がしっかりしてなくちゃいけない。
二人で生きていくってそういうことだと思う。」

妃緒の視点に僕は驚いていた。

「そろそろ帰る。
また来るね。」
「そうか、そんな時間だね。気をつけてな。」

店を出る時の妃緒の笑顔に、少し翳りが見えた。