「ごめん、妃緒。
僕はただ、妃緒の心はおかしくなんかないって言いたかったんだ。
このことは、妃緒と水野さんで考える問題だ。
だけど、これだけは聞くよ。
妃緒、今生きていることが辛い?
生まれてきたことを、後悔している?」

妃緒の目が、みるみるうちに涙でいっぱいになる。

「幸せ。生んでもらえてよかった。
私と一緒にいることをあんなにも、幸せだって言ってくれる高裕さんに出逢えて、夫婦になれたんだもの。」
言い終えると涙を拭った。

妃緒はだまってストローに口をつけ、グラスの透明の部分の体積をゆっくりと大きくしていった。
僕は妃緒の考え事の邪魔をしないように、カウンターの中で細々とした雑務をしていた。

「帰るね。
久しぶりに来てよかった。」

顔を上げると、妃緒は何かがふっきれたような表情に変わっていた。

「気をつけてね。
水野さんによろしく。」

どんな問題も、妃緒たち夫婦は一緒に乗り越えてきた。
そんな強い絆で結ばれている二人の間に生まれてくる子どもは、間違いなく幸せになるだろう。