美しいあの人

ずっと黙っているあたしに、芙美子さんはさらに激高した。
「だいたいあなた祐治のためになにができるのよ。
私は祐治の見た目を保つためならなんでもするわ。
祐治としか結婚したくないわ」
確かにあたしはなにもできない。

「それともあなた、なにか祐治を満足させることが出来るとでも言うの?」
エリといると、原稿が良く進むから嬉しいと祐治は言った。

もし本当に、祐治のパソコンに小説が保存されていたら?
祐治は自覚していない美しさをブランド品でデコレーションされることと、
自覚していない妄想が知らぬ間に形になっているのでは、どちらを喜ぶだろうか?
しかしあたしにできるだろうか。
あたしは、思いついたことを実行してみようと思った。

黙り続けるあたしに、芙美子さんはついに何も言わなくなり、
彼女はハンカチをとりだして下を向いて目頭を押さえた。
芙美子さんは、泣いている姿もさまになっていた。
ああ、泣くときも自分がどう見えるのかを気にかけているのか。
そんなの気にしたことなかったな。
あたしはコーヒー代と芙美子さんを残して椿屋珈琲を出た。
待ち合わせを決めた当初はそのまま出勤するつもりでいたのだが、
思いつきを実行するため店に電話で欠勤を告げ、
パソコンの使えるマンガ喫茶へとこもることにする。
できるかどうかはわからない。
けれど、祐治が書いたものよりはおそらくマシだろう。