美しいあの人

四つにたたんだ紙を開いてテーブルに広げようとしたら、芙美子さんが声を大きくした。
「見せないで」
驚いて、紙を取り落とす。
拾った紙にはびっしりと
「小人さんが代わりに書いてくれるから」という一文だけが連ねられている。
芙美子さんがあたしのセーラムを黙って一本取り出して火をつける。
ため息と一緒に、煙と泣き言が吐き出された。
「ずっと我慢してきたわ。
だけど見かねてうっかり祐治には小説なんか書けるわけがないって言ってしまったのよ。
そうしたら急にいなくなった。
あなたが拾いさえしなかったら、もっと早くに戻ってきたはずなのに」
何も言えなかった。
あたしはこれを見つけていたら、祐治を追い出したりしただろうか。
松井さんから何も聞いていなければ、どうしていただろうか。
どうだろう。
それでも祐治が美しいことには変わりない。
おそらくあたしは、祐治を追い出したりはしなかったろう。
「どうしてあなたは」
芙美子さんが、灰皿に半分くらいの長さのセーラムを押し付ける。
「祐治の嘘を信じてしまったの」
わからない。
出会った場所がせんばづるだったから?
松井さんから小説家の話を聞いていたから?
祐治の言葉が嘘には聞こえなかったから?
祐治が、美しかったから?
「あなたが祐治のままごとにつきあわなければ、
もっと早くに私のところに帰ってきたはずだわ」

疑わなかっただけだ。