新宿東口そばの椿屋珈琲で仕事帰りの芙美子さんを待った。
待ち合わせの時間は十八時だったが、落ち着かなくて十七時半から待ち続けた。
灰皿にはセーラムの吸い殻がどんどんたまっていく。
「待たせたわね」
十八時を少し過ぎて現れた芙美子さんは、
今日も一分の隙もないスーツスタイルで、首に薄いピンクのスカーフを巻いていた。
肩からコーチのバッグを下げている。
今日も彼女は美しかった。
芙美子さんが飲み物を頼むのを待ちきれずに、
あたしは自分のシャネルのバッグから彼女に見せるつもりの紙を取り出そうとしたが止められた。
「見せなくてもわかってるわ」
「知ってたんですよね」
芙美子さんは黙って頷いて、店員を呼んでコーヒーを頼んだ。
頼んだコーヒーが来るまで、あたしたちは押し黙る。あたしはまたセーラムに火をつける。
コーヒーが来た後に口火を切ったのは、芙美子さんだった。
「それが祐治の現実逃避だというのはわかっているわ」
「でも、それ以外は……」
芙美子さんが窓の外に目をやりながら少し投げやりに言う。
「普通なのよ。それで心のバランスを取っているのかもしれない」
「病院とか……」
芙美子さんが口の端だけで笑った。
「本人にはなんて? 彼は自分がどこかおかしいなんて絶対に思っていないわよ」
言われてみればそれもそうだと、あたしはまた押し黙る。
「そんなに私と結婚するのがイヤなのかと思ったわ。
結婚を持ち出しても、祐治は拒否しなかっただけだしね。
おかしなことをして私があきらめるのを待っているのかと思ってた。
でも違うのよ。
私が気がつくより前から、何年も前から祐治はそれを書いていたし、
ずっとそうしてきたのね。
それ以外はまるで普通でしょう。仕事だってきちんとこなしてたわ」
バッグからさっき取り出し損ねた紙を取り出す。
待ち合わせの時間は十八時だったが、落ち着かなくて十七時半から待ち続けた。
灰皿にはセーラムの吸い殻がどんどんたまっていく。
「待たせたわね」
十八時を少し過ぎて現れた芙美子さんは、
今日も一分の隙もないスーツスタイルで、首に薄いピンクのスカーフを巻いていた。
肩からコーチのバッグを下げている。
今日も彼女は美しかった。
芙美子さんが飲み物を頼むのを待ちきれずに、
あたしは自分のシャネルのバッグから彼女に見せるつもりの紙を取り出そうとしたが止められた。
「見せなくてもわかってるわ」
「知ってたんですよね」
芙美子さんは黙って頷いて、店員を呼んでコーヒーを頼んだ。
頼んだコーヒーが来るまで、あたしたちは押し黙る。あたしはまたセーラムに火をつける。
コーヒーが来た後に口火を切ったのは、芙美子さんだった。
「それが祐治の現実逃避だというのはわかっているわ」
「でも、それ以外は……」
芙美子さんが窓の外に目をやりながら少し投げやりに言う。
「普通なのよ。それで心のバランスを取っているのかもしれない」
「病院とか……」
芙美子さんが口の端だけで笑った。
「本人にはなんて? 彼は自分がどこかおかしいなんて絶対に思っていないわよ」
言われてみればそれもそうだと、あたしはまた押し黙る。
「そんなに私と結婚するのがイヤなのかと思ったわ。
結婚を持ち出しても、祐治は拒否しなかっただけだしね。
おかしなことをして私があきらめるのを待っているのかと思ってた。
でも違うのよ。
私が気がつくより前から、何年も前から祐治はそれを書いていたし、
ずっとそうしてきたのね。
それ以外はまるで普通でしょう。仕事だってきちんとこなしてたわ」
バッグからさっき取り出し損ねた紙を取り出す。
