「それって、ひとりで来て本読んでた人？」
「そうそう。八海山ロックで飲んでたでしょ」
「そっか、あの人かあ。確かにかっこいい人だったわねえ」
「千鶴覚えてるのか」
「松井さん覚えてないの」
「ぜんぜん。そうかいい男なのか」
「かっこよかったわよ〜」
「千鶴さん、色々知ってるのかと思ってた」
「ぜーんぜん。だってそんなに何回も来てないもの。
ふらーっと一人できて、話もあんまりしないし。
それこそエリちゃんと話してた日から来てないんじゃないかしら」
「そうなんだ」

結局あたしはせんばづるで祐治とのなれそめを話していた。
出会ったきっかけがここだというくらいにとどめておいたけれど。
祐治の仕事のことを話したら、松井さんと共通の知り合いがいたりするかもしれないし、
そうなったらめんどくさいなと思って詳しいことは話さなかった。

祐治ともせんばづるの話は特にしていなかったが、
千鶴さんがあまりよくは知らないというくらいなので、
本当にふらりとやってきてたまたまあたしと会ったのだろう。

せんばづるに落ち着く前にうちへ落ち着いたというところだろうか。