美しいあの人

松井さんが乱暴にビールグラスを持ち上げて、一気に中身を喉へと流し込む。
「小説にはもう飽きちまったのかねえ」
松井さんは悔しいのだろう。
小説を書きたいという気持ちだけが肥大して
毎年どうしようもない紙束を送りつけて来ていた祐治が、
他人の力を借りたとしても本当に作家になったというのに、
それをわずかな期間で手放そうとしていること、
そしてそれが芝居というまた違う形の表現方法であること、
さらにそれをもたらしたのがこの店で出会った女性であること。

「わからないわ。エリさんを選んだときもなぜだろうと思っていたけれど、
祐治の基準というのが私にはさっぱりわからないわ。
私は心底祐治に軽んじられているのね」