由紀子は見知らぬ街で自転車に乗っていた。

オフィスビル、ファッションビル、電気屋。

まるでブロックのようにこまごまと積み上げられたビル達。

そしてその隙間を縫うように歩く人々。

由紀子は比較的大きな通りで自転車をこいでいる。


自転車に乗るのなんて、何年ぶりかしら。

由紀子は記憶を辿ろうとするが、なぜか頭の中に靄がかかったようにはっきりとしない。


私はどこに向かっているのだろう。


よくわからないまま、真っすぐに走る。

目の前には緩やかな坂道。

不思議と疲れはない。

気づけば、道路の周りは青々した芝が広がっている。

由紀子はその事さえ、不思議に思わなかった。


坂の向こうに行かなければ。

由紀子の中には、はっきりとした意志があった。