「いたっ」

自分以外誰もいない部屋で、由紀子はひとりごちた。

左手の親指に出来たささくれをとろうとしたら、ささくれが思った以上に深く裂けてしまったのだ。

由紀子はペン立てにあった爪切りを取って、ささくれを切り取った。

―――初めからこうしておけばよかった。

爪切りを片しながら、由紀子は思う。

小さい時からささくれを引っ張って痛い思いをしては、母親に注意されていたことを思い出す。

―――成長してないのねえ、私。

由紀子は、ピンク色の皮膚がちょっぴりのぞいた親指をさすりながら思う。