僕と彼女と幽霊

「ちょっと、さっきから何黙って歩いてるのよ。薄気味悪いわね。」



今朝、約束の時間に準備出来てなかったのがまだ尾を引いているのか、彼女は少し機嫌が悪いようだ。



「別に黙ってる訳じゃないけど…毎日一緒にいるんだから、たまに沈黙があっても不思議じゃないだろ。」


「ダメよ、何か喋って。私沈黙が一番嫌いなの。」



はぁ〜と軽くため息をついた後で、何を喋べろうか必死で会話のネタを考えていた。



「エアコ…」
「エアコンの話しはもういいわ!最近そればっかり。エアコンなんかなくたって死にやしないんだから我慢しなさいよ。」



僕の会話は3文字で中断されてしまった。確かにみんな毎日毎日聞かされてうんざりしているのだろう。



結局また沈黙に戻り、僕が必死に会話を考えている時彼女がいきなり歩みを止めた。後ろを歩いていた僕は危なくぶつかりそうになった。



「コタロー…」


さっきまでの威勢のいい声がどこへ行ってしまったのやら、いきなり弱々しい女の子のように小さな声で僕の名前を呼んだ。



「どうしたの?」



「…今日の放課後、付き合ってくれない?」



僕はその言葉で一瞬にして思い出した。買ったばかりの腕時計をさっと見て日付を確認し、僕も静かにうなずいた。


「そうか。今日は7月2日か。もちろん付き合うよ。」


僕と彼女は少しの間そこに立ち止まり、どちらからという訳でもなくまた学校へむかって歩き始めた。その時確かに聞こえたんだ。小さく泣きそうな王さまの声が。


「コタロー…ありがとう」





.