僕と彼女と幽霊

僕が小学3年生の時にこの土地へ引っ越してきた。親の仕事の都合で、というありきたりな理由だ。僕と彼女はその頃からずっと一緒にいる。朝学校へ行くのも休憩時間もお昼ご飯も下校も、何もかも一緒に過ごしてきた。


だが、僕らは付き合っているとかそういった類いの関係ではない。しいていうならば、王さまと召し使い…に近い関係だ。現実的に、その関係の言い回しは間違ってないと思う。


僕は洗面所に行き跳ねた後ろの髪の毛を、水を少しつけた手で軽く撫でながら玄関でまだかまだかと待つ王さまのもとへ急いだ。


「行ってきまーす!」



外へ出て右へ向かうと、黒いスーツを来た30代前半の優しそうな男性が立っていてこちらにむかってお辞儀をした。


「お嬢様、今日も気をつけて行ってらっしゃいませ。」


「前川。いちいち外に出てこなくていいわよ。今日は車じゃないんだから。」


「すみません。心配性なもので。」



お嬢様。そう呼ばれる彼女は橘建設の社長の1人娘である。橘建設とは世界的に有名な建設デザインの会社で、日本だけではなく世界の建物も手掛けている。今やホテルや、飲食店、噂によるとリゾートの開発にも関わっているらしい。衰え知らずの不動の会社の1人娘、橘未来。僕からすればお嬢様というよりも、王さまに近いのだ。だから関係の言い回しは決して間違っている訳ではない。


前川と呼ばれるこの黒いスーツの人は、前川亮二(まえかわりょうじ)さん。いわば彼女の執事である。僕は前川さんの事がすごく好きだ。何故ならば、このワガママで世間知らずな王さま…いや、お嬢様の言う事をきちんとひとつひとつ聞いて、それに対して努力をするのだ。僕は彼のその誠実さにすごく感動した。とてもじゃないが、その振り回される気持ちを他人事に思えないからだ。




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