乙女な彼氏には牙がある!?




――…


チャプン…


「はぁぁぁぁぁぁあ」


なんとも重苦しいため息が、武蔵野家のお風呂に木霊する。


あの後、輝は散々泣きわめき、目をぱんぱんに腫らして帰宅したのだ。


奈留美はわざわざ輝を家まで送ってくれた。


「ちゃ―んと、この借りは返しなさいね」


と小悪魔のささやかな爆弾の置き土産を残しやがったが…


「さっぱり分からん!」


帰宅後も1人自室で悶々と考えては見たが、答えは全く出てこない。


頭をリセットしようと、こうしてお風呂に入ったのだが、温まるうちに平常心を取り戻してきた。


ただ、平常心になっても、なぜこんなに胸が痛いのか、なぜあの時泣いたのか、さっぱり見当も付かない。


「もうムリ!分からんものは分からんのだ!」


この時、輝の中で何かがはじけた。


「そうだ、きっと新型のインフルエンザにでもかかったんだ」


そっかそっかと開き直り、そそくさと全身を洗い流していく。


考えていたことが、鎧を脱ぐように洗い流された気分だった。