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 あの時のことを、忘れていたわけではない。
ただ、あの時から随分時が流れて、自分も、あの時のことがなかったことのように上手く立ち振る舞いが出来るようになっていただけだ。

そんな時に、あのビデオテープをみつけたのは、全く以って偶然のことだった。

どこに片付けていたのか、はたまたどこかに隠していたのか、自分でも分からないそれは、ある時急に目の前に現れて、何年も閉じていた記憶の蓋をこじ開けたのだった。

わざわざビデオをセットして再生してみなくても分かる。
頭の中で、勝手に映像が流れはじめた。


────…え、ビデオ?そんな…家族のピクニックじゃないんだから…

いつか、そうなればいいと思うからこういうことをしてみたんだ、と言うと彼女は なんか泣けてくる、と鼻をすすってから、


────…私ね、夢をみるの。青空の下で、ただ幸せそうにしている二人。それが私たちだったら、こんなに幸せなことはないでしょう?


そう云って、彼女は少し照れたように笑った。


────…だから、おまじない。健やかなときも、病めるときも、一生一緒に居ることを誓います。
ね、約束だよ、燈夜。



 物をあげたり、無性に愛を囁きあったりすることはなく、ただ、お互いが居ること、それだけが幸せだった。


そんな日々のことを、忘れていた 訳ではない。







 あなたは  いま  どこにいますか


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