その頃、アバルでは―

「ヅェシテ様!ゲーハルトを攻略中の兵からの報告によると、エドガー様が干からびて死んでいると……」

城兵の報告に、ヅェシテはさして驚きもせずに退却をするよう命じた。
傍らにはゾラも座している。

「セレナだな。まあよい。大きな目的を果たしたセレナはしばらく動きを抑えるだろう。それに、私に隠れてキメラの研究をしていた報いだ。エドガーは元々科学者ゆえ、ディナスの実験結果からその凄さを活かそうと思ったのだろう。ヒューズの細胞を集めたキメラなど、さしたる効果はないだろうにな」

ヅェシテは冷酷な笑みを浮かべながら呟いた。

「魔獣キメラとヒューズキメラにそれほどの違いがあるのですか?」

ゾラが至極単純に思った事を質問する。

「キメラの優位性とは、異なる細胞を集め、その力をひとつに集約させることだ。ヒューズは体の作りなど、基本形態はたったのひとつ。何千と異なる種族がいる魔獣とは比較にならん。ましてや魔獣とヒューズでは基盤となる身体能力に差がある。エドガーは、醜い魔獣キメラの体系変化が嫌だったのだろう」

ヅェシテはキメラの本質を理解していた。
更に言うならば、奇跡の変貌とも言える細胞同調においても、魔獣キメラとヒューズキメラのそれでは性質が全く異なる。
ヅェシテの言うとおり、基本形態がたったひとつのヒューズキメラであれば、細胞同調を起こす事は容易い。
しかし、ひとつひとつが種類の異なる魔獣キメラの複雑な細胞が、同調してひとつになる事はまさしく奇跡とも言える確率なのである。
ディナスとエドガーの細胞同調では、その質に雲泥の差があった。

「それよりも、今はガルバイルがどう動くかに注目をしていれば良い。お前も気になるだろう、ゾラよ」

「そうですね。あいつの事を考えると、体から……憎悪が溢れ出てくる……」

そのドス黒い魔力を見据えながらヅェシテが口を開く。

「エドガーは所詮科学者。強くなるために己を捨てられん愚か者よ。我々は全てを利用する。憎悪がゾーマの餌になるならば、くれてやるまでだ!」