「昔の話だ」

星牙は遠くを見つめる。
それはこの場にいないかつての仲間に向けられた眼差しである事を、全員がわかっていた。

「炎駒さんはきっと戻ってくる。戻りたいと思ってるはずさ。相思相愛なのに、過ぎ去った時間が大きくて、きっかけを見失ってるだけだよ」

それは炎駒自身もわかっている事だろう。
妖狐の事でラウドをたきつけた炎駒は、それによって自身を省みていたようにも思える。
なぜなら炎駒はそのとき、こう口にしていたからだ。

‘溝ってのはよ、時間が経てばそれを越えられなくなるんじゃねえ。越えるきっかけをなくしちまうだけなんだよ。きっかけさえあれば、案外簡単に取り払われるもんだぜ’

「ジード君は不思議な魔族だな」

「ん?何が?」

「君が言うと、近い未来、本当に炎駒が戻ってくる気がするよ」

星牙の言葉を聞いたレンが、力強く後押しする。

「きっとそうなるわ。だってあたし達を救ってくれたときのジードも、こんな感じだったもの」

「おいレン、‘こんな感じ’って……、随分と漠然だなあ」

「だって他に言い様がないんだもの。他とは違うあなたの魅力……誉め言葉よ」

ジードとレンのやりとりに、皆笑い声を上げる。
ジードは、自分が口から先に出した言葉を全うすることは当たり前の事だと思っている。
ジードが口にする言葉は気休めではない。
ジードにとって、それが在るべき現実なのだ。

そんなジードの‘意志の力’に充てられた星牙と索冥はいつのまにか、炎駒が戻ってくる事を心の底から信じていた。

「さあて、皆で炎駒を迎える支度をしないとな」

「気が早いですぞ、星牙様」

再びフロティアの城に笑い声が響き渡った。