‘お願い……たすけ…助けて……お願い’

レンが他の魔族に初めてさらけ出した心の叫び。
ジードの頭の中にはこの言葉が何度も響いていた。
レンの心の痛みを生み出したアバル軍。

「俺もアバル軍所属なのに、なぜ?」

ふとこんな疑問が浮かんだジードだったが、すぐにそれは自分と同じ状況なのだと気付く。

「アバルは敵だけど、個として信用してくれたのか」

そして数日後、月に一度の王への謁見に再びガルバイルが王都を訪れる。
この日は幹部会議が行われた。

「ジード、幹部会議の資料だ。お前も見ておけ」

内容は、隣国ゲーハルトへの出兵について。
ゲーハルトは七ゼモル分の領土を保有する国で、強力な魔族を何魔か抱えている。

「三つの拠点を攻める軍の編制は、ヅェシテ、エドガー?第一師団のトップが行くのか」

「一気に攻め落とそうって事だ。時間も兵力もかけずに、最小限のダメージで領地を広げる。戦争中にゼモルが同盟を組んだり、隣のメディオのジールに隙をついて攻めてこられないようにな」

「でも、戦争なんかしたら情報は筒抜けになるだろ?結局隙をつかれるんじゃないの?」

「情報が行き渡り、ジールが戦争準備をして攻めてくるまでに四日はかかる。ヅェシテらが最初から前に出て戦えば、まあ、二日で終わるだろ」

「二日!?」

「トップのいない二日間は、ジードがアバル城を守るんだ。とはいえ暗軍だからな。‘自由に動け’」

ガルバイルは最後の言葉を意味ありげに言い、すぐに王都を後にした。