ジードの噂は、名もなきこの村にも届いていた。

「すごいじゃない、ジード」

クーリンが食事の仕度をしながらフォルツに話す。

「でも、良いニュースとしてこんなに広まるなら、あなたにやってほしかったわ」

「俺がやったんじゃあ、ニュースにもならねえさ」

「そんなことないわよ。確かに、ジードは無名の魔族ってところに話題性があるけど」

フォルツは優しい笑みをクーリンに向ける。
そしてその後、少し切なそうな表情で窓の外を眺めながら言った。

「誰も知らないところで処理しちまうからさ」

このやるせなさそうな言葉を聞いたクーリンは、そっと後ろからフォルツを抱き締めた。

「そんな顔しないで。あなたはこの国を最も愛している魔族だって事、私が一番知ってるから……」


オンタナを出たジードは、その後二つの街を経由して現在はセル山脈へと向かう道程にいた。
しばらく歩くと、前方に赤い鎧を装備した集団が見えてくる。

「アバル国軍だ。ざっと二十魔くらいか」

ジードと同じく、セル山脈方向へと向かっているその集団の先頭には、銀色の鎧を着て兜をかぶった魔族がいる。
歩くスピードはジードの方が速いため、程なくして最後尾のアバル兵がジードの存在に気が付いた。