「ジード、長旅は続くんだ。今日はゆっくり寝ろよ」

「あの……、どうも……」

初めて見るものに気分が高まっていたジードだったが、何から何まで世話を焼いてくれるフォルツに対して、急にうしろめたさを感じてしまった。
自分はアバルへ潜入し、情報を盗むために来たのだ。
つまり、ここまで親身になってくれているフォルツを、自分はいずれ裏切るのだ。

「ねえあなた。どうしてジードにあんなルートを教えたの?オンタナには今、‘ダイフォン’が迫ってきているのよ。それに、セル山脈を突っ切るだなんて……死ねって言ってるようなもんじゃない!」

クーリンは声を荒げてフォルツに言い放った。
クーリンにはわかっている。
フォルツが教えたルートは、通常ならば回避するべきルートだということを。

「あいつが本物なら、なんとかするだろう。それに、ただ向かうだけじゃあ首都勤務なんか出来っこない」

「アバルに対して恩を売るってこと?でもヅェシテ将軍は……」

「あいつは堅物だからな。まず無理だろう」

「じゃあ、無意味にジードが危険に晒されるだけよ!」

「国民の声ってもんがある。もしジードがこの課題をクリア出来たならば、国民はジードを求めるだろう。そうすれば違った展開もあるのさ」

「それでもヅェシテ将軍が自分の意志を変えるとは思えないけどね」

「だから、‘違った展開’さ、クーリン」

「……?あなた、まさかあの子を?」

翌日、ジードと、見送るために来たフォルツとクーリンが村の出口に立っていた。