魔界動乱期

エレナはラウドがまだ言葉も話せない頃から一緒に育ってきた。
最初に戦う事を決意したのは、大蛇からエレナを守るためだった。
戦うという事は大切な者を守る事だというサンニールの教えを、身をもって理解した。

現在のラウドにとって、守るべき者は多数存在する。
しかしエレナを守りたいという気持ちは今も昔も変わらない。
いや、むしろ大きくなっている。
そして出来れば傍で守りたい。

「やはり私にとってはエレナが……」

そのときラウドの心には、なぜか妖狐の不可解な行動が浮かんできた。
ずっと引っ掛かっていた事……。

冷酷非道などと言われているが、妖狐は誰がなんと言おうと優しい魔族だ。その事を自分(ラウド)はよくわかっている。
そんな妖狐が、何度拒否しても戦場についてくるのは何故か?

もしかしたら自分を守ろうとして、見たくもないいくつもの‘死’を見てきたのではないか。
そして自分が危機に陥ったとき、妖狐は今までの生き方を変えてまで、仇なすものを葬ろうと決意していたのではないか。

だとすれば、妖狐が自分に向けてくれている愛は、とてつもなく大きい。

「しかし……それはあくまでも予想に過ぎない。私と妖狐は違いすぎる。それにエレナは言ってくれたじゃないか」

それは数十年前に遡る。
あるとき、ラウドはギルシャスとエレナの会話を立ち聞きしてしまったことがあった。

………………………………

「なあ、お前ら……キスのひとつでもしたんか?」

「な、何言ってるのおじいさま!あたし達はまだ……友達だし……」

「ラウドのやつ、奥手にも程があるわい。じゃが、それはちょうど良かったのかもしれん」

「何でよ?」