ギドラス来襲の報はギルシャスを激震させた。
ギルシャスは、驚異の雷獣に備えて更なる守りを築くことになる―


ラウドは、スパニーボの森を訪れていた。

「妖狐、また戦争についてきただろ。隠れていてもわかっているんだ。お前は多くの死が行き交う戦争には来るべきではない。第一ギルシャスの魔族ではないだろう!」

【知らんな。ヌシの勘違いだろう】

「お前が他の魔族を殺す姿など見たくはない!幸いそこまでは至っていないようだがな。もう絶対についてくるなよ?」

念を押すように言葉を残し、ラウドは森を出ていった。
殺しの誓いを立てて数十年。
妖狐はまだ、その手を血で染める事はなかった。
実際、ラウドを脅かすような魔族は現れていないし、ギルシャスの戦争のほとんどが、周りの国で起こる内乱の鎮圧という小さなものだからだ。
妖狐は自分の両手を見つめている。

【大丈夫だ、この手はラウドを守れる……】

そのときである。
一筋の稲光が妖狐の目の前に落ちた。

「妖狐……。ラウドを食らうまえに貴様を食らい尽くす!俺にはもっと多くの狂気が必要だ!」

復讐に狂うギドラスが次に標的にしたのは、伝説の魔族と呼ばれる妖狐であった。

【雷獣とは、面白い来客だな】

「座って余裕こいてんじゃねえぜ!」

ピシャーン!と雷撃が落ちる。
しかしそれは、妖狐の頭上で消え去った。

「なんだと!?」

次の瞬間、自分に迫り来る‘何か’を感じ取ったギドラスは、咄嗟にその場から離れる。

「今、何かが来たと思ったが……」

【野性とは素晴らしいな】