-桜―


ちゃぷん………


私は、静かに浴槽につかる。


『ふぅー、良い気持ちー♪』


頭をよぎるのは、私を助けてくれた隼人の事…


記憶もない人…しかも他人、そんな人を家に入れてくれた優しい人…


普通、怪しい…って思わない?


それなのに、隼人は家族みたいに接してくれる。


それが、嬉しいようで、切なくも思う。


いくら、優しい隼人でも、他人を家においてくれるはずがない。


『はぁー…』


自然にため息が出る。


さっき、隼人の笑った顔を見たとき、私は胸が高鳴るのを感じた。


この感情は何なんだろう?











あぁ、私は、この感情の答えをもう知っている。


タダ、自覚したくないだけだ。


自覚してどうする?


自覚してもなにも変わらない、どうせ叶うわけないのだから…


それならいっそ、自覚しない方が良い。


自覚しなかったら、傷つかなくてすむ…


『どうしようかなー…』


此処を出たらどこに行こうか


…考えてみるが、まったく見当がつかない。


それもそのはずだ。だって私は



”記憶喪失”なのだから…