「今朝、何で黙って先行った? 俺迎えに行ったんだけど」
放課後の教室はもうあたしたち以外誰もいなくて、外から聞こえる運動部の掛け声以外は静まりかえっている。
「別に先に行くぐらいいいでしょ。約束してたわけじゃないんだし」
「……」
「……彼氏が出来れば変わるものなの」
その言葉に冬馬の目の色が変わったことに気付いたけれど、すぐに教室の前方にある時計に視線を移した。
時計の針は4時半を示している。
先輩もうそろそろかな。
夏の大会を最後に柔道部を引退した熊田先輩だけれど、後輩たちの様子を見に毎日少しだけ部活に顔を出しているんだ。
今日はその後に会う約束をしている。
いわゆる放課後デートってやつだ。

