雷と二人、並んでジャングルジムのてっぺんに座り、星を眺める。
しばらく、ただ無言で星を眺めていたが、ふいに雷が公園の時計に目をやって言った。
「…さすがにそろそろ帰らねーとな」
時計は10時を指していた。
「…もうそんな時間なのか…」
家に帰りたくないという思いが強いからだろう、時間が経つのが早く感じる。
「美紅」
「…んだよ」
「俺の前では笑いたくない時に笑って見せる必要も辛い時に何でもないフリする必要もないからな」
「!」
「今まではそうやって、笑いたくない時でも頑張って笑って、辛い時にも何でもないフリしてきたんだろうし、これからも他のヤツの前ではそうしなくちゃいけない時もあるだろうけど、俺の前では必要ないから」
雷が私に酷く優しい微笑みを向ける。
「俺の前では美紅が笑いたい時に笑って、泣きたい時は泣けばいい。辛い時は辛いって言って、それを俺にぶつければいい。…美紅は一人じゃない」
それは私が生まれてこの方、一度も言われたことのない言葉だった。
「……何言ってんだ…馬鹿…」
雷のその言葉は静かに私を満たしていった。なのに素直じゃない私は憎まれ口しかたたけない。
家に帰りたくない私に付き合ってくれ、私に切なくなる程優しい言葉をかけてくれたのに、礼を言うどころか、こんな可愛くない言葉を吐いて…雷は怒るだろうか。それとも呆れて私を見捨てる?
ところが雷は…
嬉しそうに笑った。
「…何笑ってんだよ。私、アンタに馬鹿っつったんだぞ?」
「わかってるから。美紅の本当に言いたいことは」
「?」
私が本当に言いたいことをわかってる?
私が困惑していると
「さ、夜も遅いし、物騒だから帰ろーぜ」
ジャングルジムから下り、振り返って私が下りるのを待っている。
「…ああ」
さっきの雷の言葉の意味を聞いてみようと思ったが、やめた。ここで私が雷に聞き返していては話が終わらない。もう時間も遅いのだし、いつまでも雷を付き合わせる訳にいかない。私もジャングルジムを下りた。
二人でまた並んでチャリを漕ぎ、帰途につく。
雷は断り続ける私を『物騒だから』『心配だから』と強引に、と言うか無理矢理、私の家の前まで送った。
「じゃ、また明日な」
家の前で、笑ってそう言って、雷は帰って行った。