橘先輩は笑顔になった私を見ると少しホッとしたような顔をした



「よかった…今日の美鈴は元気そうで」


「え?」


「最近、元気なさそうだったからちょっと心配だった」


そう言う橘先輩はとてもやさしい笑顔で私を見ていて
これから来る別れを思いとどまりそうになる



「うん、今日は橘先輩のケガが本当に良くなってるってわかってすっごく嬉しいもん」


私はそんなことを考えているなんて悟られたくなくて、満面の笑みを浮かべて今世紀最大の演技を演じてみせる



私の今からする選択肢が、正しいのか間違っているのかはわからない



ただ言えることは



今の私にはその選択肢を選ぶより方法がないということだけだ



だから心残りはない


いや


心残りがあるとすれば一つだけ



「新しいCD買ったの聞く?」


そう言って立ち上がる橘先輩の背中をじっと見つめた