私は声を掛けようとして胸元まで挙げていた手を、どうすることも出来ずにそのまま握りしめた
そしてその場で立ち止まって様子を伺う
ちょうど斜め後ろから声を掛けようとしていたから、橘先輩は私に気づいていない
橘先輩は両手をズボンのポケットに突っ込んで、前のめりになりながら口を開いた
「あ~待ち合わせ」
「え~やっぱり女の子?」
「うん」
橘先輩、素っ気ない!
って嫌々…私がそんなこと思ってどうする…
女の子達はそれを聞いてもひるんだ様子はまったくなかった
それどころか全身から自信がみなぎっていて、ニコニコしながら橘先輩を見つめている
どうしよう…
これ逆ナンだよね?
あそこに今入っていくの?
無理無理!
私は所在なく、でもその間に入っていく勇気もなく
その場で立ち尽くしてことの成り行きを見守る他なかった
「よかったらメアドとか教えてくれない?」
「持ってない」
「え?」
「携帯電話持ってない」
………
どっかで聞いたセリフだな
そんなことを考えているとキョロキョロと周りを伺う橘先輩と目が合う
そして、え~何それ!ありえない!
っと言っている女の子を押し退けて私の手を取り歩き出した
「ありえないってさ」
ニヤッとしてそう言う橘先輩
女の子二人組をチラリと見ると、残念そうに私たちの背中を見送っている
「かわいいね?」
そんな声がして視線を橘先輩に戻すと、先輩が私の服装をジロジロ見ていたから
私は少し恥ずかしくなって下を向いた
その視線の先に橘先輩に握られている自分の手
握られた手がやけにドキドキする
なんだか凄く楽しい
街の雑踏も喧騒も、先輩といると新鮮でいとおしいリズムになる
私は先輩の横顔を盗み見ながら小さく微笑んだ



