静かに部屋のドアを開けたつもりなのに、やたらと響いて聞こえるのはこの家が静かすぎるせいだ
階段をゆっくり音を出さないように降りていても同じ
ギシリギシリと悲しげに響く
この家はいつの間にか廃墟のようになってしまった
ガチャリ
━━━!?
玄関までもう少しという所で、お父さんがヨレヨレの服装で部屋から出てきた
帰ってきてお風呂にも入らずに寝たんだろう
どうしよう…
自分のタイミングの悪さを恨みながら
恐る恐る挨拶してみることにした
「お…はよう…」
お父さんはそんな私をジッと見つめて虚ろな目を向けてくる
「出かけるのか?」
「うん…」
「小遣い持ってるのか?」
「え?うん、大丈夫…」
よかった…
今日は正気の方らしい
お父さんは自分のズボンのポケットを無造作に探ると
クシャクシャになった千円札を2枚私に差し出してきた
「あ…りがとう…」
「遅くなるなよ」
「うん…行ってきます」
私は受け取ったお札をのばすこともなく、かばにんそのまま突っ込んだ
お父さんの機嫌が変わらないうちにただ急いでこの場を立ち去りたかった
「美鈴」
だから玄関で再び声を掛けられた時、少し絶望しながら恐る恐る振り返った
けれど予想に反して、穏やかな笑顔で立っているお父さんと対峙した
「お前…そうしてると母さんに似てきたな」
お父さん…
もうお酒を呑むのはやめて
私は思わず言ってしまいそうになっけれど
思い止まった
お父さんも苦しんでいるんだ
抱えきれない思いがたくさんあるんだ
久しぶりに見るいつかの優しいお父さんの笑顔に触れ、遠くなる背中を見つめながら
私は少し穏やかな気持ちで家を出ることができた



