広い部屋のあちこちから視線を浴びながら、オレは歌う。
ちょっとイイ気分。
「ヤバい、やっぱ圭クン上手いね!」
「アタシ、付き合うなら歌上手いヒトがいいんだぁ~」
西高女子が褒めてくれる。
やっぱりイイ気分。
合コンは、嫌いじゃない。
柚子の方をチラっと見ると、さっきよりさらに困った顔をしてた。
「だって、まだ一曲も入れてないっしょ?」
「なんか歌おうよ」
「…歌えない」
「なんでー?」
どうやら、まだ一曲も歌ってないことをつつかれてるらしい。
なんとなく、見かねて声をかけてしまった。
「柚子、歌うのキライなの?」
かなり耐えかねてたのか、少しほっとした様子で答えてくれた。
「歌うのは、好きだ」
マジで。
意外だった。
「じゃ、なんで?」
柚子はしばらく迷ってから、これにも返事した。
「知ってる曲が一つも入ってなかった」
そんなことってあるのか…?
とは思ったものの、口には出さなかった。
一体何が歌えるのか逆に気になる。
「じゃあさ、音楽止めてアカペラで歌ってみたら?
せっかく来たのにポテト食ってるだけだったら、つまんないっしょ」
「それなら、歌う」

