合コン会場に向かう間、柚子はずっと無口だった。
「おーい、大丈夫?」
「……」
「ひょっとして、合コン、怖い?」
「……怖くない」
「だいじょーぶ、いざって時はオレに頼っていいからさ」
「…何を頼るんだ」
「ナニって、いろいろ?」
「……」
ふいっとそっぽを向いた横顔は、若干、いや結構ひきつってた。
クラスで独りメシしてるときの余裕綽々な態度ではない。
……まぁこれも、柚子が社会に出るために必要なことだ。
ちょっとでも人と交流して、経験値を上げないとね!
決してオレが面白がってるワケじゃないんだよ。
ついた先は、ここら辺で一番大きいカラオケ屋。
大部屋が綺麗なことで有名な。
なかなかいいチョイスじゃん。
と思ったんだけど、他のヤツの高いテンションに反して柚子は1人、呆然と立ち尽くしていた。
どころか、こっそり逃げ出そうとする。
もちろん逃がさない。
細い手首をしっかりつかんで声をかける。
「ちょっとちょっと!
なんで逃げるの?」
「…………ない」
「ん?」
「カラオケ、行ったこと、ない」
「まじで?!」
ほんとに高校生なのか!
「じゃあ初体験してみたらいいじゃん!」
「嫌だ。怖い」
「別に誰も取って食ったりしないよ?」
「カラオケボックスはその密室性から、未成年飲酒や薬物使用といった犯罪の温床になりやすいと聞いた。
そんな恐ろしい所に出入りするのは御免だ」
「……ぷぷっ、あははっ、あははははは!!」
だめだ、この子、面白い。
カラオケをなんだと思ってるのさ!

