「ほな、恒例の前夜祭といくか。慎、ケイちゃんとこ電話せぇ! 俺は皆に連絡するさかい」
「オッケー」

 いつも私たちはレコーディングする前と後で食事をしながらお酒を酌み交わす。モチベーションを上げる為に必要なことだ。

「ルイ、起きて」
「……」

 空がキレる前に起こそうと思い、ルイのその大きな体を軽く揺さぶる。しかし、いつものことながら起きるはずもない。

「…プリン、食べちゃうよ?」

 耳元で囁く。これでこの男は必ず起きる。恋人でもないのになぜ、私がこんなことしなきゃいけないのだろうか。他の人に同じことをやらせてもこいつは絶対に起きない。――実証済みだ。私でないと駄目らしい。こっちはいい迷惑だというのにこの男はいつも暢気に寝てやがる。

「…プリン」
「起きた? 飲み行くよ」
「プリンは?」
「……」

 こいつの頭の中はプリンしかないのか。

 ビー玉のような綺麗なその瞳がこちらをじっと見つめる。私はこの瞳が時折、怖く感じることがある。あまりにも綺麗すぎて、そして全てを見透かされているような気がして…。

「何、見つめ合っとるん? イチャつくなら他でやりぃ」
「い、イチャついてない!」
「ねえ、プリン」
「プリンならあるさかい、心配すんな。そろそろ行くで」
「うん」

 私たちは家を出てユウちゃんの車に乗り、いつもの店へと車を走らせた。

 その店は[Crew]といい、父の知人が経営しているカフェバーだ。彼は気分屋で営業するもしないも本人の気分次第。だからいつも店に行く時は必ず電話を一本入れる。でないと店が閉まっている確率が高い。

「さっきケイちゃんとこ電話したらめっちゃ機嫌悪かった。ドスの効いた声で…今日店やるつもりなかったんかな?」
「あの人はいつも機嫌悪いよ。機嫌良い方が気色悪い」
「酷い言い様やな、詩」
「だってそうでしょ?」
「まあ、そうやけど」

 おそらく、普段あの店は営業していないのだと思う。実家から近いのでよく見かけるのだが、いつも真っ暗でネオンが光っている姿など数えるほどしか見ていない。