煙草を吸いながら皮肉を言い放つのはBAZZのギタリストでリーダーの水嶋 空、二十歳。私の幼馴染みで女嫌いということもあり、私以外の女性とは極力関わりを持とうとしない。男としてそれはどうかと思うのだが、こればかりは本人の気持ち次第なのでどうしようもない。

「流石、我等が詩。こりゃ、気合い入れないとな」
「期待してますよ? 天才ドラマーの慎君」
「おう、任せとけ!」

 見た目も中身もチャラチャラしたこの男は相澤 慎、二十歳。BAZZのドラマーで一番のお調子者、いやムードメーカーと言うべきだろうか。レコーディングの際、根気詰まった私たちをいつも元気づけ、笑わせてくれる。BAZZにとって必要不可欠な存在だ。

「慎、詩の冗談を本気にするんやない。お前が天才やったら俺は神になれるわ」
「章チン、酷い!」
「誰が章チンや! このドアホ!」

 関西生まれのこの男は濱 章一、二十歳。BAZZのベーシストで小学生まで関西で育ったこともあり、中々関西弁が抜けないらしい。最も本人は直す気など微塵もない。公の場では標準語で話しているので特には問題ないのだが。

 私としては関西弁を話す章一の方が親しみやすくて好きだ。

 いつも違う女性を連れていて、その度に空にこっぴどく叱られている。まあ、自業自得だ。

「…てか、ルイ寝てるし」
「こいつはまた…」

 空は額に手を当て呆れ顔。

 ソファーに寝転んでいる長身のこの男はクッションを大事そうに抱えていて、その姿は小さな子供がそのままでかくなったみたいだ。名を剱持 ルイといい、BAZZのキーボード担当。日本人とイギリス人のハーフでビー玉のように青く、透き通った綺麗なその瞳は人を魅了させる力がある。

 一日の半分以上は睡眠時間に費やしているこの万年寝太郎は何を考えているのかよく分からず、付き合いが長い私たちでさえ、理解出来ないことが多々ある。

 ルイはハル兄の後輩で私たちより五つも年上の二十五歳なのだが、精神年齢は私たち以下だ。思い通りにいかないとすぐ拗ねるし、放浪癖があり、ちょっと目を離すとフラフラどこかへ行ってしまう。捜すのも一苦労。それでもピアノの腕前は天才的でどんな激しい曲もルイの手にかかればお手の物。時折、二人で曲制作に励むこともある。――キーボードはBAZZの魅力の一つ。