SONG 〜失われた記憶〜




「……ぃ……おい! 詩。起きろ」

 一時間後、体を揺さぶられて目を覚ます。呆れた眼差しで慎がこちらを見ている。

「詩、俺に起こしてやるつったよな? 何で俺が起こさなきゃなんねえんだよ」
「あはは…ごめん」
「…ったく。行こうぜ」
「ふぁい…」

 車の中には私と慎以外、誰もいなかった。皆先にスタジオの中へと行ったのだろう。
 慎と共にスタジオの中へ入っていくとロビーで綾那が待っていた。

「あ、詩。起きたんだ」
「うん。ごめん、待たせて…」
「平気よ。向こうで仕事の話しましょ」
「うん。慎、先に行ってて」
「へいへい」

 慎が去っていくのを見送りながら綾那と私はミーティングルームへと足を運んだ。テーブルと椅子があるだけの簡素な部屋に入って眠気覚ましのコーヒーを飲みながら適当なところに二人肩を並べて座った。

「で、仕事の話って何?」
「詩、Larmeっていうアイドルグループ知ってる?」
「……さあ? 誰」
「女の子五人組のアイドルグループよ。本当、詩ってこういうのに興味ないよね。時代に取り残されちゃうわよ?」
「ほっといてよ」

 昔から私はロックやクラシック音楽しか聴かないので、アイドルなどの類いには滅法弱い。学生時代、芸能人やアイドルの話で盛り上がる友人たちの輪に入れなかったのをよく覚えている。そんな時はいつも好きな音楽を聴いて自分の殻に閉じこもるのが癖だった。

「はいはい。で、そのLarmeをパーソナリティに麻薬撲滅キャンペーンが来年実施されるんだけど、そのイメージソングを詩に提供して欲しいって主催者側から依頼されたの。もちろん、歌はLarmeが歌うからイメージを壊さない程度に詩らしい曲に仕上げて欲しいそうよ」
「……別にいいけど、何で来年の仕事の話が今来るの? 早すぎ」
「それが、彼女たちの事務所からの依頼で麻薬撲滅キャンペーンソングで楽器を弾かせたいらしいのよ。その練習期間もあるから出来るだけ早く曲が欲しいみたいよ」
「ふーん。まあ、いいや。合間見て作ってみる」
「ありがとう」
「一度彼女たちに会うでしょ? 曲のイメージも湧くだろうし」
「うん」
「じゃあ、取り次いでおく。来週あたりでいいよね?」
「綾那に任せる」

 こうして私たちはミーティングルームを出て皆のいるスタジオへと足を進める。