「夕方、珠代さんと一緒に買ってきたのよ」
「奥様、随分と悩まれていたようですよ?」
「そうなんだ…」
「それと、これは私から。奥様のものと比べると大したものではないですが」
「えー、何?」
渡されたそれは包装紙に包まれた少し大きめの丸い中瓶。何だろう? いい香りがする。丁寧に包装紙を剥がしてゆくと、そこに姿を現したのは瓶一杯に詰められたハーブ。カモミールと何か他のハーブがブレンドされているようだ。
「お仕事でお疲れの時にでも飲んで下さい。よく眠れますよ」
「ありがとう」
ハーブティーはいつも特定のものを四、五杯は飲んでいるが、それは喉に効果があるものであって安眠効果はない。明日からレコーディングが始まり、仕事が忙しくなるのでお世話になるかもしれない。
「ねえ、詩。明日ママ髪切りたいんだけどよっちゃんに悪いけど連絡しといてくれないかしら?」
「……ああ、義人さんね。わかった」
よっちゃんなんて言うから誰の事かと思った。母は昔から義人さんのことをそう呼んでいる。本人はその呼び名を嫌がっているが、一向に直す気配はないよう。
「久しぶりだわ、よっちゃんに会うの。格好よくなってるわよね」
「うん」
「もう、詩がうかうかしてるから取られちゃうんじゃない。ママ、よっちゃんをお婿さんにするのが夢だったのよ?」
「……」
どんな夢だ。
「私、もう寝る。明日からレコーディングだし」
「そう? おやすみ」
「おやすみなさい」
二人に見送られ、私は部屋に戻った。すぐにベッドに入って眠りたいところだが、まだお風呂に入っていないので軽くシャワーを浴びてから就寝に就く。寝る少し前に義人さんに明日母がお店に伺っていいか確認のメールをした。そのメールの返事がくる前に私は目を閉じた。
3
翌朝、目が覚めたのは朝日が眩しい八時頃だった。顔を洗い、軽く朝食を済ませた後に昨日義人さんから送られてきたメールに目を通す。
〔大丈夫だよ。ただ昼間は忙しいから夕方頃来てくれると嬉しいかな〕
絵文字も顔文字もない簡素なメール。
メールで返事するよりも電話の方が早いと思ったので彼に電話をかける。どうもメールは苦手だ。絵文字など使うのが面倒。
「奥様、随分と悩まれていたようですよ?」
「そうなんだ…」
「それと、これは私から。奥様のものと比べると大したものではないですが」
「えー、何?」
渡されたそれは包装紙に包まれた少し大きめの丸い中瓶。何だろう? いい香りがする。丁寧に包装紙を剥がしてゆくと、そこに姿を現したのは瓶一杯に詰められたハーブ。カモミールと何か他のハーブがブレンドされているようだ。
「お仕事でお疲れの時にでも飲んで下さい。よく眠れますよ」
「ありがとう」
ハーブティーはいつも特定のものを四、五杯は飲んでいるが、それは喉に効果があるものであって安眠効果はない。明日からレコーディングが始まり、仕事が忙しくなるのでお世話になるかもしれない。
「ねえ、詩。明日ママ髪切りたいんだけどよっちゃんに悪いけど連絡しといてくれないかしら?」
「……ああ、義人さんね。わかった」
よっちゃんなんて言うから誰の事かと思った。母は昔から義人さんのことをそう呼んでいる。本人はその呼び名を嫌がっているが、一向に直す気配はないよう。
「久しぶりだわ、よっちゃんに会うの。格好よくなってるわよね」
「うん」
「もう、詩がうかうかしてるから取られちゃうんじゃない。ママ、よっちゃんをお婿さんにするのが夢だったのよ?」
「……」
どんな夢だ。
「私、もう寝る。明日からレコーディングだし」
「そう? おやすみ」
「おやすみなさい」
二人に見送られ、私は部屋に戻った。すぐにベッドに入って眠りたいところだが、まだお風呂に入っていないので軽くシャワーを浴びてから就寝に就く。寝る少し前に義人さんに明日母がお店に伺っていいか確認のメールをした。そのメールの返事がくる前に私は目を閉じた。
3
翌朝、目が覚めたのは朝日が眩しい八時頃だった。顔を洗い、軽く朝食を済ませた後に昨日義人さんから送られてきたメールに目を通す。
〔大丈夫だよ。ただ昼間は忙しいから夕方頃来てくれると嬉しいかな〕
絵文字も顔文字もない簡素なメール。
メールで返事するよりも電話の方が早いと思ったので彼に電話をかける。どうもメールは苦手だ。絵文字など使うのが面倒。
