「いい店やん」
「だろ?」

 改めて店内を見渡してみる。広さは三十名ほどが入れる小さなお店でテーブルには清潔感のある白いクロスが敷かれている。内装は至ってシンプルだが、アットホームで落ち着きのある雰囲気を醸し出しているのでとても居心地がいい。

 二、三組のカップルが仲睦まじく食事をしていて、その格好はとてもラフ。Tシャツにジーンズという出で立ちの私でも違和感ない。料理も気取った感じはなく、察するにカジュアルなイタリアンレストランといったところだろうか。

「詩」
「ん?」
「さっき打ち合わせの時、何であんなこと言ったんだ? ゲリラライブ」

 空のその言葉に皆の視線がこちらに集まる。

「ああ…刺激が欲しいというか、つまらなくて」
「確かに。マンネリ化?」

 珍しくルイが発言した。

「うん。私たちにも言えることだけど、音楽業界全般が消極的だと思うの。出来るだけリスクの少ない演出…そんなのつまらないじゃない」
「まあ、気持ちはわからんでもないけどリスクを考えるのは当たり前や。皆、俺たちの為に動いてくれてるんやから」
「ゲリラライブってそんなにリスク大きいのか?」
「当たり前だ。リハも出来ないから、失敗した時は俺たちの評判も下がる。ここまでのし上がってきた努力も水の泡だ」
「それにや、人が殺到して怪我人でも出してしもうたらどないすんねん」

 それを言われると何も反論出来ない。

「…っでも失敗を恐れてたら何も出来ないじゃない。反対なの?」
「俺はいいと思うけどなー、楽しそうだし」
「アホは黙っとれ!」
「とにかく、詩の発案だからって安易にOK出せる問題じゃない。取り敢えずこの話は保留だ。いいな?」
「…うん」

 いつになく厳しい口調の空。皆なら賛成してくれると思ったのだが、それは甘い考えだったようだ。

 しばらくして待ちに待った料理が運ばれてきた。真ん中にバーニャカウダーという生野菜を特製のソースにつけて食べる料理が置かれ、その量は軽く三人前はある。そして私の手元には綺麗にお皿に飾りつけられた魚のムニエル、男共の手元には美味しそうなワインソースがかけられた牛ステーキが。

「旨そー」
「残さず食えよー」
「全然余裕ー!!」
「…おい、あの野菜誰が食べんねん。俺いらんぞ」
「私一人で食べろっての?」
「せやかて、お前以外野菜食うやついーひんやん」