空の冷静な意見にも動じない慎の楽観主義的思考。単純で羨ましい。それが彼の良さでもあるのだが。

「やっぱり駄目ですか…?」
「いい案だとは思うけど失敗した時のリスクが大きい。そう簡単に答えは出せないよ」
「そう、ですか…」
「そう落ち込むな。まだレコーディングも済んでないのに話し合う問題じゃないだろ? 曲が完成たらもう一度話し合おう」
「はい」

 こうして打ち合わせは打ち切られた。ゲリラライブのことはまた曲が完成した時に話し合うことになった。ボツになったわけではないのでめげずに頑張るとする。レコーディングは明日から。気合い入れていこう。

 時刻は七時を回っていた。そろそろお腹が空く頃だ。

「なあ、飯食い行かねえ? 腹減った」
「肉食いたい」
「私、肉は嫌…」

 ベジタリアンとまではいかないが、私は自ら希望して肉を食べようとは思わない。どちらかというと魚や野菜の方が好きだ。鶏肉や豚肉ならたまに食べるが、牛肉となるとここ数年口にしていない。その一方でルイはステーキなどがっつり系の食事を好む。私とは正反対。

「わがままやなあ、二人して」
「だって嫌なんだもん…」
「じゃあさ、俺の知り合いがやってる店行かねえ? そこだったら肉も魚もあるし」
「そうするか」

 慎の提案に皆、頷く。

 事務所を出て、私たちは慎の指定する店へと向かう。私以外皆、電車で来たようなので車は私のベンツ。運転は慎に任せる。

     2

 その店は六本木にあるこぢんまりとした小さな店だった。西洋風の洒落た外観でオレンジ色のライトが温かみを感じさせられる。小さな庭園があり、そこには色とりどりのバラが咲いていて綺麗。

「いらっしゃいませ」

 迎えてくれたのは背の高い色白のハンサムなお兄さん。笑顔が温かで太陽みたいな人だ。

「たっちゃん、久しぶり!」
「おお、慎! 元気だったか?」
「まあね。席空いてる?」
「ああ、奥行けよ。――そちらは?」

 と、慎にたっちゃんと呼ばれるその男性は私たちに目を向けた。

「ん? …ああ、うちのメンバー」
「ああ、例の…BAZZだっけ?」
「うん」
「初めまして、水瀬 達也です。皆さんのことは慎からよく伺っています」

 ご丁寧に挨拶してくれた。すかさず、私たちもそれに応えるように挨拶を交わす。そして彼に促せられ、奥の席に着いた。