「おはようございまーす」

 いつものように事務所の地下駐車場に車を止め、中に入る。

「あ、詩さん! おはようございます。もう皆さんいらしてますよ」
「もう? 早いね。――そうだ、これ差し入れ。皆で食べて」

 笑顔で迎えてくれたのは受付の倉澤 奈々さん。いつも素敵な笑顔で迎えてくれる綺麗なお姉さんでプライベートでも何度か食事したことがある。童顔でまだ二十代前半にしか見えないが、今年で三十路を迎えてしまうのだから恐ろしい。何人もの男性が彼女の容姿に騙されているのを私はこの目で何度も見ている。

「いつもありがとうございます」
「大したものじゃないから気にしないで。コンビニで買ってきたやつだし…」
「ふふ、後で頂きますね」

 私は奈々さんに案内され、皆が集まっている一室に向かった。そこにはメンバーと綾那、ユウちゃん、企画担当、制作担当の数名が揃って仲良く談笑している。

「お、詩! 遅いやんけ。ここ座りぃ」
「あ、うん」

 と、章一に連れられ私は彼の隣に座った。

「じゃあ、私はこれで…」
「ありがとう」

 そう言って奈々さんは部屋を後にした。

「…色っぺー」
「奈々さん?」
「そう思わへんか?」

 確かに。章一の発言に周りの男共は頷く。聞いてたのか…。

 彼女の仕草や雰囲気にはどこか色っぽさがある。女の私が見てもそう思う。おしとやかな物腰の立ち振る舞い、細やかな気遣いや心遣い、落ち着きのある口調、その全てに色っぽさが感じさせられる。

「章一、奈々さんに玉砕したんだって?」
「え…マジ!?」

 慎の瞳が大きく見開かれる。

「げ…なんで知ってるん」
「本人から聞いたの。章一も大したことないね」
「ほっとけ!!」

 そんな章一の罵声も今は何も怖くない。

 雑談を交えながらの打ち合わせを始めること数時間。私はある提案を申し出た。

「私から演出について提案があるんですけどいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「新曲の発売日にゲリラライブを行うというのはどうでしょうか? サクラは一切なし。新曲のいい宣伝にもなるし、何よりBAZZを知らない人たちに知ってもらえるチャンスだと思うんです」
「…うーん」
「いいじゃん! リハなしのぶっつけ本番。やろーぜ!」
「慎、やる気満々のとこ悪りぃけどぶっつけ本番ってことは失敗が出来ねえんだぞ? わかってんのか?」
「大丈夫、大丈夫!! なんとかなるっしょ」