「ん? なんや?」
「いえ、別に…」
「そうか? ――あ、そうや。誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
「章に呼ばれたんやけど、仕事で行けへんかったんや。堪忍な」
「急でしたから仕方ないですよ。気にしないで下さい」
「今度、飯でも食い行こうや。誕生日祝いも兼ねて奢ったる」
「やった」
「楽しみにしとき」
「ふふ、はい」

 そこで会話は終了した。そして各自マシンに移動する。私は軽くストレッチした後にランニングマシンで延々と走り続ける。もちろん水分補給と小休憩は忘れずに。

 一時間くらい走って休憩しながら水を飲んでいると巧さんがこちらにやってきた。少し息が乱れているよう。何を言うわけでもなく、彼は私の隣に腰を下ろした。

「…なあ、まだ行ってるんか?」
「へ? 何がですか?」
「ライブ」
「ああ…」

 彼のその言葉で私は理解した。私がオフの日を利用してインディーズバンドのライブを観に行っていることを言っているのだと思う。インディーズではあるが、彼らの音楽に対する熱意はお客さんにも私にも伝わってくる。それを観る度自分たちも負けられないな、と向上心が湧いてくる。BAZZを結成した頃からやっていることなので今更止める気もないし、第一止める理由がない。

「いいバンドいるんか?」
「んー…気になるバンドはいます。ボーカルとドラムが凄い上手で個人的には詞に惹かれます」
「バンド名は?」
「……」
「……」

 なんだっけ? 忘れた。

「忘れたんかい!!」
「あはは…さて、私はもうひとっ走りしてきます!!」

 と、私は逃げた。巧さんは呆れたようにため息をつき、立ち上がって近くのマシンへと移動した。

 その後私は休憩と水分補給を挟みながら二、三時間ほど走ってジムを出た。時刻は四時を過ぎている。少し早いが、事務所へ向かうとしよう。途中、コンビニに寄って飲み物とお菓子を多めに調達する。事務所スタッフの差し入れだ。

 私たちBAZZが所属している音楽事務所は渋谷の中心街を少し離れた場所に位置するPOWER SOUNDというこぢんまりとした事務所。スタッフの数も数十名しかおらず、いつもアットホームな雰囲気で居心地がいい。私にとっては第二の我が家。私たちが好き勝手に出来るのは彼等のサポートあってこそだ。