「なんだ、詩。やっと起きたのか」
そんな声と共にリビングに入ってきたのは父の泰士だった。銀縁の眼鏡をかけ、淡いピンク色のシャツにジーンズというラフな格好をしている。目鼻立ちがどことなく、ハル兄と似ていて整っている。片手には数冊ものクラシックの楽譜とペンが一本握られて、曲の解釈をするつもりなのだろう。休みの日に仕事をするなんて珍しい…。
「おはよ。ママは?」
「すぐ来る」
父が言う通り本当にすぐ来た。シックな落ち着いた白のワンピースを身に纏い、首元にはシンプルなダイヤのネックレスをつけている。さっき部屋で会った時とはまた違う服装だ。どこかへ出かけるのだろう。
「どこか行くの?」
「ええ、高校の同級生とランチに」
「ふーん。…ねえ、いつまでこっちにいるの?」
「半年は居れると思うわ」
「…随分、長いね」
いつもなら帰国しても数ヶ月で戻ってしまうというのに珍しい。
「ずっとお休みもらえなかったからね。こっちでもチャリティー公演があるから完璧なお休みってわけでもないの」
「なるほどね。――私、そろそろ行くわ」
「行ってらっしゃい」
母と珠代さんに見送られながら私は一旦、自室に戻る。そして必要な荷物と昨日、正しくは今日、空に借りたライダースを持って家を出た。ハル兄に「行ってきます」と言うのは忘れずに。
車庫にはいつも三台の車がある。いずれも何千万とする高級車だ。その中の一台、シルバーのベンツに私は乗り込んだ。父が高校の卒業祝いに買ってくれた。普段、車には乗らないので大概ここに置いてある。
エンジンをかけ、車を発進させる。池袋にあるスポーツジムへと向かう。三十分もすれば着くだろう。
* * *
そこは池袋の中心街にあり、Energyという会員制のスポーツジムでレギュラー会員、シルバー会員、ゴールド会員の三つに分かれている。デビュー前から体力作りの為に通っていて、デビューするまではシルバー会員だったのだが、今はゴールド会員に格上げした。というのも一般のお客さんに騒がれてしまい、運動が出来る状態じゃなくなってしまったからだ。幸い、ゴールド会員は会員数が少なく、会員同士が鉢合わせになることは滅多にない。
そんな声と共にリビングに入ってきたのは父の泰士だった。銀縁の眼鏡をかけ、淡いピンク色のシャツにジーンズというラフな格好をしている。目鼻立ちがどことなく、ハル兄と似ていて整っている。片手には数冊ものクラシックの楽譜とペンが一本握られて、曲の解釈をするつもりなのだろう。休みの日に仕事をするなんて珍しい…。
「おはよ。ママは?」
「すぐ来る」
父が言う通り本当にすぐ来た。シックな落ち着いた白のワンピースを身に纏い、首元にはシンプルなダイヤのネックレスをつけている。さっき部屋で会った時とはまた違う服装だ。どこかへ出かけるのだろう。
「どこか行くの?」
「ええ、高校の同級生とランチに」
「ふーん。…ねえ、いつまでこっちにいるの?」
「半年は居れると思うわ」
「…随分、長いね」
いつもなら帰国しても数ヶ月で戻ってしまうというのに珍しい。
「ずっとお休みもらえなかったからね。こっちでもチャリティー公演があるから完璧なお休みってわけでもないの」
「なるほどね。――私、そろそろ行くわ」
「行ってらっしゃい」
母と珠代さんに見送られながら私は一旦、自室に戻る。そして必要な荷物と昨日、正しくは今日、空に借りたライダースを持って家を出た。ハル兄に「行ってきます」と言うのは忘れずに。
車庫にはいつも三台の車がある。いずれも何千万とする高級車だ。その中の一台、シルバーのベンツに私は乗り込んだ。父が高校の卒業祝いに買ってくれた。普段、車には乗らないので大概ここに置いてある。
エンジンをかけ、車を発進させる。池袋にあるスポーツジムへと向かう。三十分もすれば着くだろう。
* * *
そこは池袋の中心街にあり、Energyという会員制のスポーツジムでレギュラー会員、シルバー会員、ゴールド会員の三つに分かれている。デビュー前から体力作りの為に通っていて、デビューするまではシルバー会員だったのだが、今はゴールド会員に格上げした。というのも一般のお客さんに騒がれてしまい、運動が出来る状態じゃなくなってしまったからだ。幸い、ゴールド会員は会員数が少なく、会員同士が鉢合わせになることは滅多にない。
