SONG 〜失われた記憶〜

「そうだ、詩ちゃん。今度の月曜日の夕方、空いてる?」
「月曜日ですか?」
「うん。毎年恒例のバーベキュー、良かったら参加して。まだ一度も参加したことないでしょ?」
「…そういえば」

 毎年この時期になると彼の店では従業員とお客さんとでバーベキューをする。お互いの親交を深める為らしい。毎回誘ってくれるのだが、この時期はいつも新曲の曲制作やレコーディングで中々時間が取れない。今回はスケジュールの調整前なので綾那に頼めば何とかなるだろう。

「まあ、無理にとは言わないけどさ。店の奴らが詩ちゃんに会いがってるし、時間あったら来てよ」
「んー…綾那にスケジュール確認してから後で連絡しますね」
「ありがと」

 とても優しく、温かな笑顔を向ける義人さんに私もとびっきりの笑顔で返した。

「……外出ない?」
「え?」
「さっき来る時、月が凄い綺麗だったから月見しながら飲も?」
「いいですね」

 私たち二人は騒がしくなっている店内をこっそり抜け出し、外に設置してある粗末なベンチに腰掛けた。

 彼の言う通り、夜の闇に浮かび上がる満月はなんとなく、いつもより綺麗に見える。手を伸ばせば届くのではないか、と錯覚してしまうくらい近く感じた。

「夜空なんて久しぶりに見た」
「俺も。東京の空も捨てたもんじゃないな」
「ふふ、そうですね」

 ここは都心から少し離れているので、夜になれば星も少なからず見える。こうして夜空を見上げていると昔、家族で一度だけ行ったキャンプを思い出す。あの頃はハル兄も元気で私の体も少しずつ丈夫になりつつあり、両親と初めて泊まりがけで出掛けた日だった。あの日の夜も今日のように星が浮かび上がっていて、家族四人肩を並べ、仲良く夜空を見上げていた。私は流れ星が見たくてずっと見上げていたのだが、結局疲れて眠ってしまった。気づいた時には朝日が昇っていた。

 出来ることならあの頃に戻りたい。笑顔の絶えなかったあの日々に…。

「…クシュンッ」

 肌寒くなり、くしゃみが出た。夏とはいえ、流石に夜は少し冷える。しかも今の私の服装はキャミソールワンピ一枚。そりゃ、寒くもなる。

「寒い? 中入るか」
「はい」

 義人さんは着ていた薄手のカーディガンを私に掛けてくれた。彼の匂いが鼻を擽り、心地よい。