朝はテレビの音で目が覚めた。


聞き覚えのある声に
瞬発的にテレビに目をやる。

来週公開される
有名映画監督の
待望の新作の宣伝。


その情報番組には
女優の安西紗織が
作り笑顔を浮かべ
映画の告知をペラペラと喋っている。


安西紗織…か。


しばらく見ながら
準備をした後、

プチッ。

小さい音を経て
画面と一緒に
安西紗織の笑顔が消えた。



リビングに出ると
9時過ぎだと言うのに、
父親がビールと
何なかのよく分からないつまみを食べていた。


「何だよコレ、まじーな!」

そう言ってまた一口
口に運ぶ。

まずいなら食べなきゃ良いだろ。


…こんな光景も見慣れた。



眠くなったのか倒れる様に
横になった父親をまたぎ
玄関でローファーを履く。



「おい。真琴。」




「…何?」


父親が私の名前を呼んだのは、いつぶりだろう。


床に座ったせいで
汚くなった制服のスカートを払いながら
そんな事を思っていた。



「自分の部屋に勝手にテレビ持ってくんじゃねえよ。」



目を瞑りながら
眉間にしわを寄せ
不機嫌そうな父親の顔。

これ以上不機嫌にすると、
怒鳴られる事は目に見えている。


私の金で買った
テレビだなんて事
この人は覚えてもいないのだろう。




「私が学校に行ってる間に、リビング戻しておいて良いから。」




玄関を開け
深呼吸をする。


湿きった家の空気から
やっと解放された。