人の恋人は蜜の味。ーa traitor ー



「え?本当にっ?」


美沙の声のトーンが
上がった。



素直に喜ぶか、
いきなりの事に疑うか、
五分五分だと思っていたが
美沙はどうやら前者の様だった。


どちらかと言ったら
後者の方がありがたかったけど
この際どうでも良い事だった。



「明日はバイト?」



「うんん、オフ!」



もちろん知っていた。

数日前私から
バイトの予定を
何となく聞かれた事なんて
全く覚えていない様だった。



「18時に教室に来てだって」



「結構遅いんだね?」



「多分皆で話し合うんじゃない?」



「そっか。」



「それまで、駅前のカラオケで時間潰さない?
私おったんとカラオケ行く約束してるからゆーちゃんも誘ってさ!」



「うんっ!いいね!」



次から次へと自らの口から
出てくる嘘に我ながら感心していた。



そして、
待ちに待った
その次の日。



「おはよ~!」



笑顔で登校してきた
美沙の顔は一時間も経つと
すぐ暗くなった。


それは当たり前。


なぜならイジめなんて
何一つ無くなっていなかったから。



誰一人として
美沙の挨拶に応えない。


誰一人として
美沙の顔を見ない。


もちろん

謝りたい

なんて誰一人として
思っていないんだから。



全て私がついた嘘なんだから。