「………ねえ奏。ちょっと休んだら?」


薄暗い部屋の中で、背を丸めて書きものに熱中している瀬田に、堺は声をかけた。


「いい、別に疲れていない」


彼女の心配を突っぱね、彼はまた自分の世界へ再び戻って行った。


堺はため息をつき、そこら辺にあった椅子に適当に腰がけた。


「働け」と悪魔的笑顔で堂々と言い放つ堺が「休め」などということは天と地がひっくり返るほど奇跡に近いことだった。


新しい曲を作りたい、と彼が堺に思いを伝えたのだ。


作曲も自分でやるというのだから、目から魚本体が出そうだった。


作曲もできるはできるが「僕は詩を書くだけだ」と自分の仕事以外は極力手をつけないようにしている。


それがこんなことになったのだから、何の気まぐれだろうか。