「おもしれぇなお前………よしっ!気に入った!」
腹部を抑えながらむくりと彼は上体を起こし、瀬田に微笑みかけた。
「お前に美羽をくれてやるよ」
「………もともと君のものではない」
それもそうだな、と夏目は爽やかに頬を緩ませた。
この男が自分より優っていると確信したくなくて、今まで彼は美羽の印象とともにずっと悩んでもいた。
しかし今日の出来事でそれらがすべてはっきりした。見たくなくてもしっかりこの目の奥に焼き付いてしまっている。
見た目は細いが強い拳、冷静な判断力、そして彼女を想う一途な思い。
彼が定めていた条件にピッタリ瀬田は当てはまったのだ。こんな男はもう二度と現れないかもしれない。
ふと自分は本当に美羽の恋人になりたかったのか、とおもった。
ただ彼女に見合う男が現れるのを期待し、それを拒み受け入れる存在になりたかっただけなのかもしれない。つまり兄貴的存在に自分はなりたかったのだ。


